研究概要 |
本研究課題では,統計力学などの分野で提唱されている様々な確率的手法のアルゴリズム的な有効性を解析することを目的としている.本年度は,1.昨年度に提案した解析手法の詳細な研究,2.回路の構成法手法におけるランダム性の除去に関する研究とその発展を中心に研究を進めた。 1.昨年度,疎パリティ検査行列を持つ符号に対するランダム局所探索法による復号アルゴリズムを対象として,その平均的な振舞いを調べた.その中で,非常に素直な形の近似解析の道筋を見つけることができた.本年度は,この手法を詳細に検討し,近似解析全体において,二つの「近似」が行なわれていることを明確にし,そのそれぞれの近似について,その精度などを調べた.とくに,マルコフ過程を近似的に解析する手法については,その精度保証を理論的に議論するため,単純だが非線形で状態数が非常に大きくなるマルコフ過程を考え,その解析を詳細に行った.その結果,平均からの分散を抑える式(Azuma-Hoeffdingの式の拡張)を得ることができた.さらに,非線形度に着目した解析手法の開発の手掛かりも得ることができた. 2.SAT問題など難しい問題に対する回路計算量を議論する際に,回路を構成的に示す手法が必要となる。これまでの最適な結果は,ランダム性を用いた手法であったが,そのランダム性を低い計算量で除去できるか否かについて研究を行なった.その過程で,相対計算に対する新しい枠組を発見し,P vs.NP問題に対する新たな考え方を提案することができた.
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