電力制御が不完全なCDMAシステムのモデルについて、ベイズ決定理論にもとづくCDMAマルチユーザ復調問題の定式化、および統計力学のスピングラス理論の分野での解析手法であるレプリカ法を使ってのCDMAマルチユーザ復調方式の解析的性能評価をおこなった。また、マルチユーザ復調の代表的なアルゴリズムのひとつであるマルチステージ復調器に対して、ニューラルネットワークの研究分野で開発されてきた統計神経力学の枠組みを適用して、その復調ダイナミクスを記述する解析理論を定式化した。統計神経力学の理論には、一次理論と称される甘利、馬被の理論、およびそれを高次に拡張した岡田の理論があり、その双方について適用をおこなった。また、不完全電力制御の条件のもとでマルチステージ復調器による復調の数値実験を実施し、数値実験と復調ダイナミクスに対する解析理論との比較、および、数値実験によって最終的に達成される性能とレプリカ解析による結果との比較をおこなった。さらに、復調ダイナミクスの理論解析結果にもとづいて、マルチステージ復調器において多元接続干渉成分を各ステージで部分的に除去する「部分干渉除去」のアプローチについて検討した。部分干渉除去の考え方はDivsalarらにより最初に提唱されたものであるが、彼らは干渉除去の程度を決める係数(干渉除去係数)を発見的に決定していた。本研究では、解析理論にもとづくことにより最適な干渉除去係数を解析的に決定できることを示し、それにもとづいた新しいマルチステージ復調アルゴリズムを提案した。また、提案したアルゴリズムについての数値実験を実施し、従来手法を上回り、かつDivsalarらの提案手法と同等の性能を示す結果を得た。
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