細胞のストレス適応応答の詳細な分子機構の解明を目指すべく、ヒトおよび酵母細胞のストレス応答シグナル伝達経路の制御機構を引続き解析し、以下の成果を得た。 1.ヒト細胞に於けるMAPKKK-MAPKKドッキング相互作用の解析 昨年度までに、ERK2を活性化するMAPKKであるMEK2にはc-Raf MAPKKKとの特異的結合に必須なドッキングドメイン(DVDドメイン)があることを明らかにした。本年度は、ヒト細胞においてp38ストレスMAPKがストレス刺激(例えば紫外線)などで活性化すると、増殖因子によるERK2 MAPKの活性化を抑制することを見出した。さらに、その活性化抑制には、MEK2のDVDドメイン近傍のリン酸化およびその結果として引き起こされるMAPKKK-MAPKKドッキング相互作用の特異的阻害が重要であることをも示した。 2.浸透圧ストレスによる酵母Ste11 MAPKKKの活性化制御機構の解明 本年度は、HOG経路の鍵因子の一つであるSte11 MAPKKKの活性化機構を詳細に解析した。我々は、以前Ste11の機能にSte50タンパク質が必須であることを報告した。その理由は不明であったが、今年度の研究により、Ste11と結合したSte50が多機能のアダプターとして働くことがわかった。まず、第一段階では、(Ste11と結合した)Ste50が(Ste20と結合した)Cdc42に結合することによりSte11の活性化を誘起する。さらに、第二段階では、このSte50が、(Pbs2と結合した)Sho1と結合することによってSte11によるPbs2 MAPKKの活性化に関与する。これらのことから、MAPKKKの活性化とMAPKKの活性化とに同一のアダプターが関与していることを初めて示した。
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