昨年度見出した、浸透圧直後に起こる浸透圧センサーSho1pとアクチン制御タンパク質Las17pの一過的結合の生理的意義について解析を進め、この結合が阻害されると浸透圧刺激直後のHog1pの活性化が昂進することを見出した。このことから、野生株においては、浸透圧刺激直後にSho1pのSH3ドメインにLas17pが結合することにより、Sho1pを介したPbs2pの活性化が阻害されていると考えられる。さらに重要なことに、Sho1pとLas17pの結合が阻害されると、本来は活性化されないはずの擬菌糸形成経路のMAPキナーゼであるKss1pが、浸透圧刺激に応答して一過的に活性化されることを見出した。以前より、Hog1p活性を欠損した変異株では、浸透圧刺激に応答してKss1pの活性化が起こってしまうことが報告されていた。したがって、浸透圧刺激直後の未だHog1pが活性化されていない時期、すなわちHog1p活性に依存してKss1pの活性化を抑える機能し得ない時期には、Las17pがSho1pに結合してPbs2pの活性化を抑え、これによりMAPキナーゼ経路間の特異性が確保されていると考えられる。 浸透圧刺激に応答してアクチン骨格の脱局在が起こることが知られているが、その機構は明かではない。我々は、アクチン制御タンパク質Las17pが浸透圧に依存して本来の細胞内局在を失うことを見出した。また、Las17pが浸透圧刺激に応答してリン酸化を受けること、このリン酸化を担うのはGSK-3 (glycogen synthase kinase-3)ホモログであることを明らかにした。GSK-3欠損変異株では浸透圧刺激後のLas17pの脱局在が遅れ、さらにアクチン骨格の脱局在も低下していた。このことは、GSK-3を介したLas17pのリン酸化とそれによる脱局在が、浸透圧刺激に応答したアクチン骨格の脱局在に重要な役割を果たしていることを示唆している。
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