生物は外界からのストレスに対して、そのストレスに応じてさまざまな応答を行うことにより生体防御を行っている。われわれは、線虫C.elegansをモデル動物として、ストレス応答型MAPKカスケードの機能を解析している。本年度は、外界からのストレスのひとつである細菌感染に対して、線虫のストレス応答型MAPKカスケードがどのような役割を果たしているのかについて調べた。C.elegansに感染する菌のひとつとして、緑濃菌Pseudomonas aeruginosaが知られている。野生型のC.elegansは、緑濃菌感染に対して抵抗性を示し、感染してもすぐには死なないことから、感染に対する防御機構が働いていると考えられた。そこで、線虫のストレス応答型MAPKカスケードと、緑濃菌感染に対する感染防御機構との関係を調べたところ、哺乳動物のMAPキナーゼキナーゼキナーゼ(MAPKKK) ASK1の線虫ホモログNSY-1と、MAPキナーゼキナーゼ(MAPKK) MKK3/6の線虫ホモログSEK-1の変異株が、ともに緑濃菌感染に対する抵抗性が低下していることが明らかになった。SEK-1は線虫のp38 MAPKホモログであるPMK-1の上流で機能することが示唆されていたので、緑濃菌に感染された線虫において、PMK-1がNSY-1およびSEK-1依存的にリン酸化されているかどうか調べたところ、そのリン酸化が確認された。さらに、RNAiによる遺伝子発現抑制実験により、PMK-1も緑濃菌感染に対する抵抗性に関わることが明らかになった。これらの結果から、NSY-1-SEK-1-PMK-1から成るMAPキナーゼカスケードが、C.elegansの自然免疫機構において重要な役割をはたしていることが明らかになった。
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