研究代表者らは、線虫において亜ヒ酸などの酸化ストレスにより、SEK-1とPMK-1からなるキナーゼカスケードが活性化し、それが転写因子SKN-1を介して腸でグルタチオン合成酵素(GCS)の線虫ホモログGCS-1の転写を誘導することにより、酸化ストレスに対する耐性を誘導することをこれまでに見いだしていた。今回、さらに詳細な解析を行い、in vitroにおいてPMK-1がSKN-1の74番目と340番目のセリンをリン酸化すること、in vivoにおいてSKN-1はアルセナイトストレスにより核移行するが、sek-1およびpmk-1変異体内ではそれが起こらないことを見いだした。そこで、74番目と340番目のセリン残基をアラニンに置換したSKN-1を作成して線虫内での挙動を調べたところ、この変異型SKN-1はアルセナイトストレスによる核移行ができなかった。これらのことから、PMK-1によるSKN-1のリン酸化は、酸化ストレスによるSKN-1の核移行に必須であることが示唆された。 また、SKN-1の核移行を負に制御する因子として哺乳動物GCK3キナーゼの線虫ホモログGSK-3を同定した。gsk-3(RNAi)個体では、ストレス非依存的にSKN-1の核移行が起きるが、その移行はsek-1変異体内では起きなかった。さらに、SKN-1がGSK-3によりin vitroでリン酸化されること、GSK-3によるリン酸化部位をアラニンに置換するとストレス非依存的にSKN-1が核移行することがわかった。これらのことから、線虫ではSEK-1-PMK-1キナーゼカスケードとGSK-3が、それぞれSKN-1の酸化ストレス依存的な核局在を制御することにより、ストレス応答を個体レベルで制御することが明らかになった
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