研究概要 |
コムギは倍数化により進化してきたことを特徴とする。パンコムギは倍数化する際、異種間の異なるゲノムを組み合わせた(異質倍数性:ゲノム式AABBDD)。本研究は、倍数性コムギとその祖先種をモデルシステムとして、遺伝子の構造と環境に応答した遺伝子発現パターンをゲノム生物学的に解析し、植物ゲノムの倍数化による種形成の分子機構を研究する、ことを目的とする。 本年度は、倍数性コムギの種分化に関わる遺伝子座近傍のゲノム構造の解析を目的とした。開花時期のずれが植物の種分化に関与していると考えたので、遺伝子として、シロイヌナズナの花成制御の中心的役割を果たすCONSTANS(CO)のゲノム相同領域を解析した。パンコムギのA, B, Dゲノム由来のクローン(TaHd1-1; 48476bp, TaHd1-2; 53873bp, TaHd1-3; 75789bp)を特定した。それぞれのクローンには、COの相同遺伝子をはじめ約10個の遺伝子が存在した。それぞれの遺伝子はゲノムによって転写量が異なるものがあった。この領域にもレトロトランスポゾンが集積していた。特にBゲノムの多くみられた。それぞれのゲノムに異なる反復配列のメンバーが挿入されていた。これは、3種ゲノムが分化した後に転移因子が挿入されたものと推察された。 また、倍数性コムギでのSNPs解析を実現するため、まず、コムギ同祖遺伝子間でみられるSNPsハプロタイプを各ゲノムにアサインし、3種ゲノムを識別するSNPsハプロタイプの同定を試みる研究を継続した。比較的転写量の多い5199遺伝子コンティグを抽出した。これらのうち、1ゲノムからのみ転写されている遺伝子23を選抜した。これらの遺伝子をパイロシークエンス法によりそれぞれのゲノムの各染色体にアサインしてみるとDゲノムから発現する遺伝子が多い傾向にあった。これらの発現メカニズムを分子遺伝学的に解析する予定である。
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