研究概要 |
銅酸化物高温超伝導体の超伝導発現機構を解明する目的で、超高分解能光電子分光装置の改良を行った。具体的には、測定時における最高分解能を向上するために、極端紫外線フィルター機構の設計・取り付けを行った。その結果、超高真空中での試料表面の寿命を10倍以上も向上させる事に成功し、これまで表面劣化によって超高分解能光電子分光測定が困難であったという問題点を本質的に克服した。 本装置を用いて、電子型高温超伝導体Pr_<0.89>LaCe_<0.11>CuO_4の超高分解能角度分解光電子分光を行い、世界で始めて超伝導ギャップの波数依存性の直接観測に成功した。その結果、ホール型とは異なり、超伝導ギャップの形状が非単調型のd_x2_<-y>2波対称性を示すことを明らかにした。さらに、超伝導ギャップの大きさが最大となる波数が反強磁性折り返しバンドとメインバンドの交点(ホットスポット)に位置することを見出した。以上の実験事実から、電子型高温超伝導体における超伝導機構に磁気的相互作用が密接に関係していると結論した。 また、ホール型高温超伝導体における準粒子の起源を明らかにする目的で、不純物(Zn, Ni)を置換したBi系高温超伝導体の高分解能角度分解光電子分光を行った。その結果、超伝導状態において、ブリルアンゾーンの(π,0)点近傍におけるエネルギーバンド分散の折れ曲がり(kink)構造に、不純物添加によって顕著な変化があらわれることを見出した。本実験で観測された電子状態における磁気的同位体効果の振る舞いから、銅酸化物における超伝導機構は磁気励起と密接に関係していると結論した。 ホール型および電子型高温超伝導体のこれまでの実験結果全体についての総括を行い、高温超伝導体における準粒子生成機構および超伝導発現機構に、反強磁性的相互作用が決定的な役割を果たしていると結論した。
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