研究概要 |
永久凍土帯に分布するタイガ(北方針葉樹林)の火災や伐採による撹乱が地表面の熱・水収支及び二酸化炭素収支に及ぼす影響を評価するため,森林火災によって森林植生が失われたシベリア・ヤクーツク市近郊のサイトにおいてCO_2フラックスを含む微気象の観測を行った。観測サイトはロシア・ヤクーツク市の北西約25kmの地点で,2001年9月の森林火災によって植生が撹乱を受けた.林床植生はほとんど消失し,冬期の風により燃え残った木が倒された直径70mのサイトである.観測期間は7月26日から9月4日である。2002年は強度の乾燥年であり,特に5,6月の降水量が少なかった。乾燥日の6月30日は日中の光合成,夜間の呼吸ともに小さく,また光合成のピークが午前にシフトする典型的な水ストレス下の変化パターンを示した。伐採跡地について,夜間のCO_2フラックスは,両年で同程度である。2001年の日中のCO_2フラックスは夜間と同程度で変化が見られないが,2002年は明らかに日中に低下し,負の値に達している。これは,地表植生の回復にともなう光合成であると考えられる。伐採地の日積算CO_2フラックスは,2001年7月16日が+2.6gCm^<-2>d^<-1>,2002年7月17日が+1.6gCm^<-2>d^<-1>であり,日収支は放出であるものの光合成の回復による生態系CO_2放出量の低下が観測された。一方,火災跡地では日中に大きな負のフラックスが観測され,回復初段階の植生によって活発に光合成が行われていることが示唆された.夜間のCO_2放出量は非常に大きく,土壌呼吸が活発であることも示された.2002年の8月2日の日積算CO_2フラックスは+0.3gCm^<-2>d^<-1>であり,伐採2年後の値よりも小さなCO_2放出量であることがわかった。8月の火災跡地の値は正で全体としてCO_2の放出源になっていたことを示す。しかし,伐採跡地の7,9月の値と比較すると,CO_2の放出が小さいことが推定され,森林植生撹乱のCO_2収支への影響としては森林伐採の方が大きいことが予測される。
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