研究概要 |
一般に,熱膨張係数は融点に反比例し,材料に固有のものであるためにその制御は困難であると考えられている.本研究は応力誘起マルテンサイト変態を利用した新しいタイプの低熱膨張材料の開発を目的として行った. 熱弾性型マルテンサイト変態を生ずる合金では,過度の歪を与えると加熱・冷却で可逆的に形状が変化する二方向形状記憶効果が得られる.この効果が加工によってどの様に変化するかを定量的に調査した.まず,典型的な熱弾性型マルテンサイト変態を生ずるCu-Zn-Al合金は変態に伴う温度ヒステリシスを示し,その温度幅は約30℃である.しかし,冷間圧延などの加工を行うことにより温度幅は広がり,1%以上の冷間圧延で約140℃のヒステリシスが得られた.さらに,冷間圧延を行った合金は,圧延方向に対して冷却で膨張するという負の熱膨張係数を示すが,Cu-Zn-Al合金では1.5%の冷間圧延をすると圧延方向に0.49%の二方向形状記憶効果が得られ,さらに加工度を増すにつれて小さくなり,9%以上の圧延ではほぼ0%となった.即ち,9%以上の圧延で熱膨張曲線が加熱・冷却で直線となる.このときの熱膨張係数は,9%圧延のときほぼ0になり,圧延率がさらに増加すると二方向形状記憶効果は見られずに正となった.以上のことから,9%の歪を予め材料に与えておくことにより,140℃の温度幅(-100℃〜40℃)で熱膨張係数がほぼゼロ(0±3×10^<-6>K^<-1>)となる材料を得ることができた.-190℃〜90℃の間で500回の温度サイクルを行っても同様の熱膨張曲線が得られ,加熱・冷却の繰り返しにも安定である事がわかった.さらに,冷間圧延をクロス圧延とすることにより,一方向のみならず圧延面のどの方向に対しても熱膨脹係数がほぼゼロとなることが明らかになった.Cu-Zn-Al合金の導電率は約20%LACSと高く,精密機器などに加えて電子実装部品などへの応用などが期待される.
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