研究概要 |
海洋有機物プール中の非生物態有機物、即ち、懸濁態及び溶存態有機物の分子レベルの情報について、特にアミノ酸含有有機物に関して多くの成果を得た。以下に平成17年度の主要な研究実績を要約する. ・アミノ酸分析、電気泳動法、化学分画等を組み合わせた実験結果から、懸濁態有機物中のアミノ酸は、生物体と同じタンパク質で構成され、極性の異なる緩衝液を用いた化学分画から、ペプチド・タンパク質分子は懸濁粒子内で、分子間相互作用の異なる3つの環境(ファン・デル・ワース力、水素結合、水和)下においても、一様に存在していることを明らかにした。また、ガラス繊維濾紙に捕集されているにもかかわらず、懸濁態アミノ酸には、分子量5〜6千の比較的低分子量ペプチドが、アミノ酸全体の20%程度であった。 ・アミノ酸分析、限外濾過法、3次元蛍光法等を組み合わせた実験結果から、アミノ酸含有溶存有機物の大部分は分子量5,000以下の画分に存在することから、これらのアミノ酸は、その化学形としてはペプチドである可能性が高い事。分子量5,000以上の画分について、表層水中では、タンパク質及びポリペプチドが存在するが、深層水中では、高分子画分であってもアミノ酸はオリゴペプチドとして存在している事がわかった。 海洋に存在するアミノ酸は、生物体のタンパク質に由来する。それにもかかわらず、懸濁態及び溶存態を問わず非生物態有機物中に存在するアミノ酸の大部分はペプチドで存在することは、有機物プールの生成・維持機構に新たなパラダイムを与える。 すなわち、有機物プール中のダイナミックスは、比較的低分子の有機物の性質とその性質の違いによるファン・デル・ワース力、水素結合、イオン結合等の相互作用の違いにより、決定されていることを示唆するものである。
|