研究概要 |
水生生物の存在基盤となっている塩類細胞の機能と分化誘導機構を理解するために,淡水型と海水型塩類細胞の分子解剖及び分化誘導因子の候補分子の探索を行い以下の成果を得た。1.恐山ウグイの酸性適応機構の解明:pH3.5に適応させたときにエラの塩類細胞に強く発現してくる分子群の同定・機能解析を通して,酸性適応機構を分子レベルで説明できるようにした。2.尿素排出系と塩類細胞:海水魚は水を保持するためにわずかの尿しか排泄しない。これに対処し効率よく代謝産物を排泄するために,海水ウナギでは一旦尿に排泄された尿素を再吸収し,エラの塩類細胞から排泄するという驚くべき系が組み込まれていることを明らかにした。3.淡水型塩類細胞のサブタイピング:ゼブラフィッシュを用いて淡水型塩類細胞(MRC)には,Na-K-ATPase型(NaK-MRC)とV-type H-ATPase(vH-MRC)の2種類があることを明らかにし,そのうちのvH-MRCがNaイオンの取り込みに関与していることを証明するとともに,動物生理学の歴史的課題である淡水からのNaイオンの取り込み機構を提唱した。4.塩類細胞の分化誘導機構:ゼブラフィッシュを用いて,塩類細胞の発生を制御する転写調節因子の同定に成功し,vH-MRCがFox遺伝子ファミリーの一員であるfoxi3aの支配下にあること,さらにMRCがゼブラフィッシュ幼生の体表に点状に散在する仕組みにdelta-notchシグナル系が関与していることを証明した。5.ゲノムデータベースが確立しているフグを用いてアンモニア輸送体をすべてクローニングしそれらの発現部位を決定したところ,そのうちの一種Rhcg1がエラのMRCのアピカル膜に発現していることを明らかにした。窒素代謝とイオンホメオスタシスの関連を示唆する興味深い知見である。
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