分子・細胞・個体レベルにおける動物の光環境応答とサーカディアンリズム

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14104003
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 深田 吉孝 東京大学, 大学院・理学系研究科, 教授 (80165258)
• 研究分担者: 和田 恭高 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(PD) ; 広田 毅 東京大学, 大学院・理学系研究科, 研究拠点形成特任教員(常勤形態) ; 岡野 俊行 東京大学, 大学院・理学系研究科, 講師 (40272471)
• キーワード: 概日時計 / 松果体 / 視交叉上核 / MAPキナーゼ / p38キナーゼ / リン酸化 / 転写調節 / カルシウム結合蛋白質

研究概要

交付申請書に記載の研究実施計画に沿って研究を遂行し、下記の成果を得た。
(1)マウスの視交叉上核(SCN)におけるMAPKのリン酸化量(活性)の日内変動を精査した。その結果、SCNの背内側部においては明け方に一過的なピークを示し、中心部においては夜間に長時間にわたる活性化が観察された。一方、主観的夜にマウスに光刺激を与えると、MAPKはSCNの腹側で一過的にリン酸化されたが、SCN中心部においてリン酸化されていたMAPKは逆に脱リン酸化された。SCN中心部のMAPKの挙動は、ニワトリ松果体時計細胞における挙動と酷似しており、光依存的なMAPKの不活性化は時計の位相シフトに普遍的な役割を果たす可能性が示唆された。
(2)ラットSCNにおいてサーカディアンリズムを示すことが知られているSCOP蛋白質の機能解析を行った。その結果、SCOPはラフトにおいてK-Rasを抑制することが判明した。また、SCOPを培養細胞において過剰発現させると、刺激受容に伴うMAPKの活性化が部分的に抑制された。これらの結果と、ニワトリ松果体においてMAPKと上流のRas、Raf1およびMEKの活性は互いに同じ位相で日周変動することを考え併せると、SCOPは時計細胞におけるMAPKカスケードの発振をRasの上流において制御する分子である可能性が考えられる。
(3)ニワトリ松果体に発現しているp38キナーゼが、一日を通して一定の活性を示すことを見出した。p38の特異的阻害剤を培養松果体細胞に連続投与すると、メラトニン分泌リズムの周期は顕著に延長され、この阻害剤をパルス投与すると、昼の時間帯にのみリズムの位相が後退した。さらに、松果体細胞におけるp38の標的分子としてMAPKAPK2を見出した。以上の結果から、ニワトリ松果体においてp38/MAPKAPK2経路が昼に時計発振系に入力して位相前進をひき起こす可能性が示唆された。

研究成果

• [文献書誌] Fumiko Shimizu: "Purification and immunohistochemical analysis of calcium-binding proteins expressed in the chick pineal gland."J.Pineal Res.. 34. 208-216 (2003)
• [文献書誌] Kimiko Shimizu: "Suprachiasmatic nucleus circadian oscillatory protein, a novel binding partner of K-Ras in the membrane rafts, negatively regulates MAPK pathway."J.Biol.Chem.. 278. 14920-14925 (2003)
• [文献書誌] Michio Nakaya: "Spatial and temporal regulation of mitogen-activated protein kinase phosphorylation in the mouse suprachiasmatic nucleus."Biochem.Biophys.Res.Commun.. 305. 494-501 (2003)
• [文献書誌] Yuichiro Hayashi: "p38 mitogen-activated protein kinase regulates oscillation of chick pineal circadian clock."J.Biol.Chem.. 278. 25166-25171 (2003)
• [文献書誌] Chandana Haldar: "Effects of gonadal steroids on pineal morphogenesis and cell differentiation of the embryonic quail studied under a cell culture condition."Dev.Brain Res.. 145. 71-79 (2003)
• [文献書誌] Yoshitaka Fukada: "Molecular oscillation behind the clockface."J.Biochem.. 134. 773-775 (2003)
• [文献書誌] Toshiyuki Okano: "Chicktacking circadian clock."J.Biochem.. 134. 791-797 (2003)
• [文献書誌] Ken'ichi Hagiwara: "Analysis of the molecular interaction of the farnesyl moiety of transducin through use of a photoreactive farnesyl analog."Biochemistry. 43. 300-309 (2004)
• [文献書誌] Yuichi Hashimoto: "Production of N-lauroylated G protein α-subunit in Sf9 insect cells : The type of N-acyl group of Gα influences G protein-mediated signal transduction."J.Biochem.. (in press). (2004)
• [文献書誌] 深田 吉孝: "松果体の光受容と概日時計システム"脳と神経. 55(1). 13-24 (2003)
• [文献書誌] 深田 吉孝(分担執筆): "『図説分子病態学』 改訂3版(一瀬白帝・鈴木宏治編)の「視覚異常」の項を分担執筆"中外医学社. 502(6) (2003)
• [文献書誌] 岡野 俊行(分担執筆): "『時計遺伝子の分子生物学』(岡村均、深田吉孝編)の「時計遺伝子総論:脊椎動物」の項を分担執筆"シュプリンガーフェアラーク東京. 204(8) (2004)
• [文献書誌] 小島 大輔(分担執筆): "『時計遺伝子の分子生物学』(岡村均、深田吉孝編)の「概日光受容体とは何か」の項を分担執筆"シュプリンガーフェアラーク東京. 204(8) (2004)
• [文献書誌] 深田吉孝(分担執筆): "タンパク質化学講座第4巻『酵素-リアーゼ』(泉井桂編)の「アデニル酸シクラーゼ」の項を分担執筆"廣川書店(印刷中). (2004)