本研究においてはRLGS法で検出された60個の異常DNA断片の同定と関連遺伝子の解析を行った。この内42個を同定したので、本年度は主に関連遺伝子の機能解析を行った。 本研究で同定したWNT10Bはbeta-cateninターゲット遺伝子の活性化能を有していた。これは他のWNTファミリーと同様に増殖促進作用と考えられた。しかしながらWNT10Bは肝臓癌と大腸癌でDNAメチル化による不活性化を受けることが判明した。また、不活性化を受けた細胞に導入した所、その増殖を抑制した。この作用は活性型のbeta-cateninには見られず、beta-cateninとはインディペンデントな経路を介するものと推察された。興味深いことに、この増殖抑制作用はFGFが存在すると打ち消された。WNT10Bは増殖抑制と促進の両作用を有し、癌細胞でFGFと協調することによって増殖を促進するケースと、DNAメチル化によって不活性化されるケースがあると考えられた。この結果を現在投稿中である。 候補癌抑制遺伝子として報告したASCLについてはチェックポイントでの研究が特に進んだ。ASCL結合タンパクがチェックポイント活性の大きさと持続を制御していることを見出し、さらにASCLがASCL結合タンパクを介して、このチェックポイントを調節し得ることを明らかにした。 別個に同定した遺伝子産物はDNAメチル化酵素と結合することを見出した。このタンパク質は顕微鏡下でDNAメチル化酵素と同じ局在を示し、免疫沈降法で強く相互作用することが判明した。さらに、このタンパク質にはDNAメチル化酵素を調節する作用があることを見出した。 以上の如く本研究で同定したメチル化不活性化遺伝子は、癌化に関連した細胞機能を制御することが判明した。
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