癌ゲノムDNAの網羅的解析に基づいた、癌特異的変化を示す60個のDNA断片のうち42個を特定した。すべてに異常なDNAメチル化の変化を認めた。そのうち38個が遺伝子と関連していた。22個は既報遺伝子であり、18個はメチル化不活性化を受ける新規遺伝子と考えられた。機能推定可能遺伝子の内訳は、シグナル伝達4個、核タンパク10個(転写因子4個を含む)、膜タンパク7個、代謝系2個であった。10個について関連遺伝子のRNA発現を調べた所、そのすべてに癌特異的な遺伝子不活性化が見出された。8個について増殖アッセイを行ったところ、すべてに細胞増殖抑制作用を検出した。さらに、詳細な機能解析によって3個のJAK/STAT系の抑制因子が肝癌で不活性化を受けることを見出し、発がんにおける恒常的JAK/STAT活性化の重要性が明確となった。また、チェックポイントを維持する新たな機構がDNAメチル化不活性化によって破綻していることも明らかとなった。WNT系の発がん作用のある遺伝子には、隠れた増殖抑制機能が見出された。さらに、DNAメチル化酵素と結合するタンパク質がメチル化不活性化を受けることが判明し、このことと異常メチル化との関連が示唆されている。本研究によって得られた貴重な候補癌抑制遺伝子の機能解析が、DNAメチル化機序の研究に繋がっていると考える。同定したメチル化DNAローカスを癌の診断に利用するための基礎的な方法を開発した。6個のローカスを用いて肝癌患者の血液を調べた所、癌特異的となるマーカーが見出された。以上のように、癌における高頻度のDNAメチル化は多くの場合、細胞の増殖や浸潤能を抑制する遺伝子の不活性化を引き起こすと考えられた。体細胞におけるDNAメチル化は癌細胞で広汎に起こり、その遺伝情報を大きく変化させることによって、細胞増殖の亢進した状態を形成すると考えられた。
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