1)嗅覚受容体(odorant receptor : OR)遺伝子の相互排他的発現制御 当グループでは、YACトランスジェニックマウスを用いたOR遺伝子の発現系を世界に先駆けて確立し、同一染色体上の同一部位に並んで挿入された、複数のトランスジーンの間に発現の相互排他性のある事を見出した。これは、同じ調節領域を持つ同じ種類のOR遺伝子同士が、non-allelicな状況においても相互排他的に発現されることを実験的に示した初めてのものである。 当グループでは最近、MOR28遺伝子クラスターの上流約90kbのところに、このクラスターに属する複数のOR遺伝子を包括的に制御するシス領域を同定した。この約2kbの領越は、欠失させると下流のOR遺伝子の発現がすべて消失するのみならず、個々のOR遺伝子に直接つなげると、その選択頻度が飛躍的に上昇する。この制御領域は、OR遺伝子のクラスター単位での制御に加え、OR遺伝子が一種類選択される際の選択頻度の調節にも関与している可能性がある。 2)匂いシグナルの制御に関わる新たなタンパク因子、SRO 嗅覚受容体に匂い分子が結合したというシグナルは、嗅細胞特異的Gタンパク質(Golf)と、アデニルサイクラーゼ(ACIII)を経てサイクリックAMP濃度の上昇を引き起こし、その結果チャンネルが開いて、電位差を生じさせる。この電気信号は軸索を通して嗅球上の特定の投射先である糸球に入力され位置情報に変換される。嗅細胞の繊毛には、この一連のカスケードを開始させる複数のタンパク質が複合体を形成しているが、当グループでは、嗅繊毛に局在し匂いングナルの伝達を制御する新たなタンパク質、stomatin-related olfactory(SRO)proteinを同定した。現在このタンパク質の機能を解明する為、sro遺伝子のノックアウトマウスの解析を行っている。
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