研究概要 |
ヒトやマウスの嗅覚系では、個々の嗅神経細胞は約一千ある嗅覚受容体(odorant receptor : OR)遺伝子の内、たった一つを相互排他的かつmono-allelicに発現している。この1神経・1受容体ルールは、嗅上皮で受容された匂い分子の結合シグナルが、嗅球上の特定の糸球に入力されて位置情報に変換される際、1糸球・1受容体ルールと共に、嗅神経回路形成の基本となっている。最近我々はOR遺伝子の単一発現が、locus control region (LCR)によって一つのOR遺伝子が活性化される正の制御と、発現されたOR分子によって他のOR遺伝子の新たな活性化が抑えられる負の制御が連携して達成されている事を見出した(Science 302,2088,2003)。 正の制御は、一つのOR遺伝子をどの様にして活性化するかというもので、我々は、OR遺伝子クラスターを支配するLCRに転写活性化複合体が形成され、これが一つのプロモーターとのみ相互作用する事によって、クラスター内での単一OR遺伝子の活性化が保障されていると考えている。但し、複数のLCRの間に活性化される際の排他性がなければ、早晩、別のクラスターが活性化され、OR遺伝子の単一発現が崩れることになる。そこで我々は、OR分子そのものに、他のOR遺伝子の新たな活性化を阻止する負のフィードバック機能があるのではないかと考えた。具体的には、コーディング領域の欠失ミュータントや、フレームシフト変異を持つ偽遺伝子を用いて、機能的OR分子の発現が、他のOR遺伝子の更なる活性化を抑える為に必要である事を示した。但し、OR分子自身どの様にして抑制シグナルを発するのか、またターゲットとなる分子が何なのかなどについては不明であり、今後明らかにされる必要がある。
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