本研究では、不良債権問題について、企業サイドの信用情報(格付)を用いてその総額を推計した。対象は、東京都内に本社を有する企業の借入額である。データは、帝国データパンク(TDB)が作成した評点を基にしたが、同評点には企業規模からくる格差があるため、そうした要因を取り除いた「修正評点」を使用した。このベースで作成したデータは、国内の有力格付け機関である格付投資情報センターの格付の評価とも近い。「修正評点」が50点未満の先は、不良化している可能性が極めて高く、ここでは不良債権をこのベースで定義している。なお、不良化の度合いを「要注意先」以下の債務者区分で捉えており、優良担保の影響等は考慮していない。 これらを前提として不良化の度合い毎に借入額を集計すると、「要注意先」以下に該当するとみられる不良先の借入金額は108.1兆円であり、調査対象企業の借入金総額の61.1%を占める。このうち、「要管理先」以下に該当する金額は64.4兆円で、同36.4%に相当する。また、資本金規模が小さい先に於いて両比率ともに高く、巷間取り沙汰されている中小企業の不良化を具体的に示している。これを基に全国の不良債権総額を推計すると、200兆円以上である可能性が高い。なお、上場企業についてみる限り、信用リスクに応じた貸出金利の設定は一応行われているとはいえ、その幅はかなり小さいことも明らかとなった。 また、地域金融機関の規模の経済性の存在についても分析を行った。不良債権処理負担や情報通信関連投資負担の増加を背景に規模の利益を目指した合併が多いが、現実には合併後に相当のコスト削減が必要である先が大半であることも明らかとなった。
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