研究概要 |
本研究は、基本的に外部の調査機関が行った企業の評点(格付)を用いつつ進めてきた。まず、それを利用して二十一世紀初頭の時点に於ける不良債権の規模を推定した。東京都の所在する資本金1千万円以上の企業を悉皆的に対象とした。その結果、建設・不動産・卸小売・金融4業種で不良債権全体の6割を占め、また総額は金融庁の調査結果を大幅に上回ることを示した。次に、このミクロデータを用いて、空間分析、即ち企業の取引金融機関との距離について分析した。その結果、対象とした東京都では、地域銀行や信金・信組等はかなり狭い領域に取引を集中しており、都銀についても近年のリテール重視の結果、信組と同程度の狭い領域に取引先が集中していることが示された。 不良債権問題の終息後に考えるべきは、個々の金融機関生き残り策である。こうした視点から地域銀行の株価動向をみると、近年バラツキが拡大している。その決定要因として、短期的な収益性の影響は低下しており、替わって長い眼でみた収益力ないしストックの健全性に関する市場の見方が厳しくなっていることなどを明らかとした。貸出行動の面では、地域銀行は地元回帰姿勢を採ってきた結果、シェアが上昇している先が多い。しかし、取引企業の資金需要は強くないだけに、シンジケート・ローン等のウエイトが高まってきていることを示した。また、経営効率化を進める過程で、営業店の統廃合問題が生じており、それを阪神間の都銀を対象に、地理情報システムを使用して経済環境を含めた各営業店の属性を検討した。その結果、常勤職員数に代表される店舗の規模、店舗近傍に於ける競合状況,最寄り支店までの距離が大きく影響することが明らかとなった。 なお、金融機関が企業と取引を始める幾つかの要因について、メインバンクによる優良企業の「囲い込み」を中心に検討し、大手行と地域金融機関ではその誘因がかなり異なることを指摘した。そして、銀行が企業との取引開始を望む理由として、貸出順位が下位であっても、優良企業との取引増加が収益拡大に結びつき易いことを明らかとした。
|