研究概要 |
充填スクッテルダイト化合物は一般式LnT_4X_<12>(Ln:希土類元素など、T:遷移金属元素、X:リン・ヒ素・アンチモン)で表され、結晶構造は体心立方晶系に属し、空間群はIm-3(No.204)である。この充填スクッテルダイト型構造を持つ化合物は、構成元素の違いによって磁気秩序、多極子秩序、近藤半導体、非フェルミ液体、金属-絶縁体転移、重い電子状態、そして異方的超伝導と、実に多彩な電子状態が出現する物質系であり、現在、強相関電子系の国際的トピックスに発展している。このような多彩な異常物性は、共有結合性が強いX原子のp電子がつくる主伝導バンドのネスティング不安定性、結晶の高い対称性を反映した自由度、特に4f電子の軌道の自由度、さらに、4f電子軌道とX原子のp電子との混成効果が絡み合って様々な物性が現れると予想されている。 我々はすでに高圧合成法を用いて、軽希土類元素の充填スクッテルダイト化合物を系統的に合成し、物性を研究してきた。しかし、重希土類元素が入った充填スクッテルダイト化合物の研究はほとんど行われていないのが現状であった。我々は高圧合成法を用いて、重希土類元素を含む新スクッテルダイト化合物LnT_4P_<12>(Ln=重希土類元素;T=Fe,Ru,Os)の合成を試み、新物質開発に成功した。Fe系ではLnFe_4P_<12>(Ln=Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Y)を系統的に高温、高圧下で合成し、これらの物性を研究した。ここで、Ln=Gd,Tb,Dy,Ho,Er化合物は強磁性体、Lu,Y化合物は超伝導体であること、Tm,Ybは低温まで常磁性を示し、価数揺動する可能性があることを見出した。Ru系では、LnRu_4P_<12>(Ln=Gd,Tb,Y)の3種類しか合成できていないが、Gd,Tb化合物は反強磁性体になり、Fe系やOs系化合物とは異なる磁性を示した。TbRu_4P_<12>に関しては中性子回折実験を行い、反強磁性構造を確認した。YRu_4P_<12>は転移温度9Kの超伝導体であることを見出した。Os系ではLnOs_4P_<12>(Ln=Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Y)の新スクッテルダイト化合物を合成した。M=Eu,Gd,Tbの化合物は強磁性体、Smの化合物は反強磁性を示す。Dy,Ho化合物は低温まで常磁性で、Fe系化合物と異なっている。YT_4P_<12>(T=Fe,Ru,Os)は3つとも超伝導を示し、その超伝導転移温度(T_c)はすでに研究されているLaT_4P_<12>(T=Fe,Ru,Os)のT_cよりも高い。本研究で16個の新スクッテルダイト化合物を合成し、4つの新超伝導体を発見した。さらに、2成分系のスクッテルダイト化合物であるCoP_3やRhP_3に、希土類元素を高圧下でドープした新物質開発にも成功している。
|