研究概要 |
この研究の目的は,一軸性圧縮というユニークな実験方法によって望みの方向にだけ結晶の格子を圧縮し,有機超伝導体の結晶構造と電子構造を制御することにより,超伝導状態とこれをめぐるさまざまな電子状態の関係を究明することである。この研究は,特別推進研究「有機導体の柔らかい格子における電子状態:物性制御から設計へ」(課題番号10102004)の発展である。 まず,1軸性圧縮下での伝導測定を終えている擬2次元性有機超伝導体α-(BEDT-TTF)_2KHg(SCN)_4とそのNH_4塩および類似物質α-(BEDT-TTF)_2I_3については,常温および極低温一軸性圧縮下でのX線構造解析を行って分子配列および電子構造を明らかにした。K_3、C_<60>フラーレンについては,結晶の3軸のいずれの方向に圧縮しても,超伝導転移温度に対してほぼ同程度の効果が見られた。異方性がないことについて,今後慎重に吟味する必要がある。 2次元有機超伝導体k-(BEDT-TTF)_2Cu(NCS)_2では伝導面内c軸方向への一軸性圧縮によって超伝導転移温度が上昇することが分かった。また、モット絶縁体k-(BEDT-TTF)_2Cu_2(CN)_3では,伝導面内のどちらの結晶軸方向に圧縮しても超伝導が誘起され,弱い圧縮下では超伝導転移温度が上昇することが分かった。以上の結果は,超伝導発現機構におけるスピン揺らきの重要性を示唆している。 伝導面間距離が超伝導を支配しているように見える擬2次元モット絶縁体θ-(DIETS)_2[Au(CN)_4]については系統的に類縁体の探索を行うため,基礎技術として[1,3]-ジセレノール-2-チオン及びその誘導体の新しい汎用合成法を開発した。この方法により,安全に扱える無臭固体試薬である単体セレンのみを用いて多数の新しいTSeF誘導体を合成することができる。本法については現在特許を2件申請中である。
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