研究概要 |
この研究の目的は,一軸性ひずみ法によって望みの方向にだけ結晶の格子を圧縮し,有機超伝導体の結晶構造と電子構造を制御することにより,超伝導状態とこれをめぐるさまざまな電子状態の関係を究明することである。 一軸性ひずみ下における擬2次元有機導体α-(BEDT-TTF)_2XHg(SCN)_4,(X=K, NH_4),の電子バンド構造と超伝導転温度および密度波転移温度の関係を解明し,この系統の物質の電子状態が主としてバンド構造だけで説明できることを明らかにした。関連物質としてθ-(BEDT-TTF)_2CsZn(SCN)_4の一軸性圧縮下における伝導と構造を調べ,α相物質に比べて電子間クーロン相関が重要となるθ相物質では,一軸性圧縮によるバンド構造の制御によってクーロン相関の役割を制御できることを明らかにした。 κ相BEDT-TTF物質の代表として,2分子対が正三角格子に非常に近い構造を作るモット絶縁体κ-(BEDT-TTF)_2Cu_2(CN)_3を陽子NMRの測定で調べ,磁気秩序が30mKの極低温まで存在しないことを発見した。局在スピン間の幾何学的なフラストレーションによってスピン液体状態が安定化されていると考えられる。これに伝導面内の一軸性ひずみを加えると伝導が誘起され,臨界温度は静水圧下の約2倍(7K)にまで達する。クラストレーションを一軸性ひずみによって壊したことが,臨界温度の上昇の原因と考えられる。 物質開発では,DIETSを基本骨格とする種々のセレン置換体の系統的な分子合成とAu(CN)_4塩の作成を行った。ヨウ素置換側がジセレノール骨格のドナー分子では,強いヨウ素結合によるネットワークが形成される。伝導性はセレン原子の数に依存しており,分子内に6個のセレン原子を含むDIEDSSeは4.2Kまで金属的性質を保持することが判明した。一方,ヨウ素置換側がジチオール骨格のドナー分子では螺旋状の超分子構造を形成することがわかった。
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