研究課題
8月に低温研で研究集会を開催して情報交換を行うとともに、気象学会、気水圏シンポジウム、「みらい」シンポジウムで研究発表を行った。北極海の9月の上旬から中旬にかけては、熱収支に対して放射フラックスが支配的であったが、9月下旬以降は乱流フラックスの方が支配的であった。CO_2フラックスが寒気吹き出しと同時に急激に増大(大気から海へ)し、海洋による二酸化炭素の吸収が現場観測で確認することができた。雲頂高度2km以下の下層雲のみ出現していた期間は約45%であった。下層雲の厚さが300mを超えると日射は雲の厚さにほとんどよらず約45〜60%が散乱吸収されたが、300mより薄いと光学的厚さのばらつきが大きくなった。風速10m/s未満の弱風で不安定の場合には乱流フラックスも小さく、形成された層雲ないしは層積雲の対流構造は明確ではなく、かつ雲底が降下し接地してできる霧も観測された。レーダエコーの鉛直分布の時間変化から、周期的に低気圧がこの海域を通過していることが明らかとなった。雲頂高度の出現頻度は(a)1kmで最も高く、ついで(b)5kmと(c)7〜8km付近で大きかった。重要なことは、(a)の北極層雲はほとんど降水をもたらさず、北極海内の降水は主に(b)(c)によってもたらされていることである。南の低気圧である(c)は、全体に気温が高く降水粒子は雨であり対流構造も顕著である。一方、北極海内で発生するポーラーロー(b)は気温が低く降水粒子は雪であり、対流雲の発達も明瞭ではない。ただし、何れの低気圧であっても、雲頂高度の気温はほぼマイナス30〜40度の範囲にある。上層の巻雲の発達は南の低気圧である(c)の方が顕著で、北極域の上層への水輸送はほとんど(c)によって行われていた。ただし、(c)によって氷晶の形で輸送された上層の水は、落下途中でほとんど全て蒸発し、中・下層には輸送されない。