研究課題
基盤研究(A)
長江希釈水の分散過程を明らかにするために、水温・塩分センサー付き衛星追跡ドリフターを開発し、長江希釈水域に投入して、その軌跡を追うとともに塩分の変化過程を調べた。また同時に、気候値および時々刻々の風データを用いた数値モデル実験を行い、長江希釈水の広がり域の再現を試みた。その結果、長江希釈水の広がりは季節スケールにおいても、またより局所的な分布を持つ数日スケールにおいても、風に大きく支配されていることが明らかになった。長江起源水の生物環境に対する影響に関連して、栄養塩の起源について考察を行った。適当な水平渦拡散係数を仮定すると、微細構造から見積もられた鉛直渦拡散係数および塩分のラグランジュ的時間変化から、長江希釈水の分散(塩分の増加)には下層からの湧昇流が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。その大きさは、複数のドリフターの発散から見積もった鉛直流の大きさと概ね一致した。水温、塩分のほかに栄養塩を用いた水塊分析からは、大陸棚上の下層には、台湾北方で陸棚上に侵入した黒潮躍層水がわずかに陸起源水と混合した水が存在することが示された。また、酸素同位体比の分析からは、黒潮の中・深層水が外部陸棚域の下層に断片的に見られることが示唆された。対馬海峡では東水道に比べて西水道でより低塩分になる傾向が定期フェリー「かめりあ」によるモニタリングに基づいた時系列を通して確認された。さらに対馬海峡では、長江流量の経年変動にある程度対応した塩分変化が見られ、長江流量が多い年には平年に比較して特に東水道で低塩分化することが示された。日本海においても、その生物生産には鉛直構造が重要な役割を果たしているが、過去の深層における係留データを用いた解析により、その鉛直混合には慣性重力波が大きな役割を果たしていることが示唆された。
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