研究概要 |
イオン種の溶媒和は、溶液内イオン性反応や上層大気反応、あるいは星間分子形成反応など幅広い分野においてその関与が指摘され、その分子レベルでの理解に向けて、溶媒和分子クラスターをモデルとする研究が行われている。しかし、その対象クラスターサイズは分子数が10未満に止まっており、凝集相物性があらわれる程度に充分大きなモデル系の構造解析は実践されていない。本研究では、大きなサイズのクラスター構造や化学反応性について分光学的研究を行う目的で、イオンクラスター振動分光観測に基づいたクラスター構造解析を可能にする方法を確立した。特に、イオン種の溶媒和モデルとなる水和クラスター構造の分光解析を行って、以下の結果を得た。 (1)ベンゼン-水クラスターカチオン1<n<23 赤外及び電子スペクトル観測および量子化学計算による構造最適化法によって、小サイズ種: n=1,2,3では水分子はベンゼン環の2つのCH基に等価に水素結合したside-chain構造を取ることを決定した。また、中サイズ種:4<n<10では、水クラスターによるベンゼン環のプロトン引抜反応が発生して、フェニルラジカル生成を見出し、大サイズ種:11<n<23ではペンゼン環の特徴は完全に消失して、プロトン水和クラスター構造の特徴を呈する事を見出した。 (2)プロトン-水クラスターカチオン4<n<27 赤外及び電子スペクトル観測によって、プロトン水和構造はn〜10において鎖状構造から網状構造へ変化し、またn>20において籠状構造へと変化することを見出した。 本研究により、クラスターイオン赤外スペクトル観測の適用範囲が大きく拡大されて、大きなサイズの水和構造の分光情報獲得を可能にして、クラスター構造解析における赤外分光法の有力性を提示した。
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