研究概要 |
80%以上の収率でC70,C76,C78,C80,C82,C84などの高次フラーレンやSc2@C84,La@C82,Sm@C82,Gd@C82などの金属内包フラーレンをチューブ内部に内包したSWNTsを合成することに成功した。金属内包フラーレンをSWNT中にドープすることにより、空のSWNTでは実現できない電子物性が期待できる。例えば、金属内包フラーレンからSWNTへの電子移動により、より金属性を帯びたSWNTを生成することが可能であることが解明された。 SWNTの内部空間がもつ大きな可能性と重要性がある。内径1.0nmのSWNTの空間(反応場)に、直径1.0nmの金属内包フラーレンが1次元的に、かつ最密に充填されている。あたかも、これから起こるSWNTの内部でのフラーレンの反応を待っているかのようである。反応容量がマイクロスケールの空間を利用したマイクロリアクター(microreactor)が近年注目を浴びている。マイクロリアクション(microreaction)は精密工学や医療・診断分野のみならず、化学工学の分野でも大きな関心を集めている。しかしSWNTはマイクロリアクターよりもさらに1000分の1小さい極微の反応容器になる可能性がある。SWNTの内部空間を化学反応の"場"に積極的に利用できないであろうか?直径1.0nm前後で長さが100-300nmの空間は将来、究極の極微サイズ(ナノスケール、サブナノスケール)の化学反応の場になり得るのではないか。実際われわれは、単層カーボンナノチューブの内部空間で、金属内包フラーレンが極めて効率良く、融合反応することを観測することに成功した。 サマリウム金属内包フラーレン(Sm@C82)を内包したSWNTのTEM写真の時間変化の観察に成功した。TEM観測を始めた直後は、Sm@C82は完全に1次元的に整列しており、その分子間距離は1.1nmであった。観測開始後約4分後、分子の再配列が起こり始める。あるSm@C82分子は互いに近づき、ダイマーやクラスターを形成し始めている。さらに観測時間10分が経過すると、Sm@C82が重合し、ダイマーやクラスターになり、最終的に約20分後には、筒状のナノカプセルヘと変化する。さらにTEM観測と同条件下で、Sm@C82ピーポッドの時間分解EELS測定をおこなった。その結果からSm原子の荷数は約10分の寿命で+2から+3へと変化していることがわかった。TEM像の時間変化と併せて考えると、Sm@C82のケージが破れると同時に、Smは新しい化学結合をカーボンケージと形成し、結果として荷数が+2から+3へと変化していると結論できる。 フラーレンや金属内包フラーレンはバルクの状態では、容易にこのようなクラスタリングや融合反応を起こすことはない。つまり、予想通り、カーボンナノチューブの内部空間は「非常に効率の良い1ナノメータースケールの化学反応の場」であることが理解される。活性化エネルギーが極めて低いのである。これが、カーボンナノチューブ内の反応場の極めて顕著な特徴である。近い将来、フラーレン内包のカーボンナノチューブを短く切断し、各種溶媒に溶ける全く新しいフラーレン・ナノチューブのコンポジット物質を創製できるであろう。
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