研究概要 |
本研究では、かさ高い置換基を用いた速度論的安定化の手法を利用することにより、含高周期14族元素芳香族化合物を安定な化合物として合成し、その構造・物性を解明することで、これらの化合物の芳香族性の系統的な評価を行うことを目的としている。さらに、得られた基礎的な知見をもとに、新規な機能性物質開発へと展開することを目指している。 本年度は、2,4,6-トリス[ビス(トリメチルシリル)メチル]フェニル(Tbt)基をケイ素上に導入することにより,初めてのフェン系の含ケイ素芳香族化学種である9-シラフェナントレン1を安定な化学種として合成・単離し、各種スペクトル、X線結晶構造解析、および理論計算により、1が芳香族性を有することを明らかにした。また1のスズ類縁体である9-スタンナフェナントレン2の発生を2,4,6-トリ-t-ブチルベンゾニトリルオキシドおよびメタノールによる捕捉実験により確認した。しかしながら、捕捉剤がない場合には室温で二量化反応が進行してしまい、2の単離には至らなかった。理論計算を行ったところ、9-スタンナフェナントレンでは二重結合が局在化した構造が安定であることが示唆され、この計算結果は2が容易に二量化することを支持していると考えている。 さらに、Tbt基よりもよりかさ高い置換基である2,6-ビス[ビス(トリメチルシリル)メチル]-4-[トリス(トリメチルシリル)メチル]フェニル(Bbt)基をゲルマニウム上に導入することにより,9-ゲルマアントラセン3を合成することにも成功した。各種スペクトル測定および理論計算の結果から、3もまた芳香族性を有していることが明らかとなった。
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