研究概要 |
(1)ヒドリド(ヒドロシリレン)タングステン錯体の合成と性質 嵩高いトリヒドロシランとメチルタングステン錯体との光反応により,ヒドリド配位子とヒドロシリレン配位子の両方を持つ塩基の配位のない新しいタングステンシリレン錯体を合成単離することに成功した。X線構造解析から,この錯体のヒドリド配位子とヒドロシリレン配位子との間には珍しい配位子間相互作用があることが明らかになった。この構造はDFT理論計算からも支持され,タングステン-ヒドリド-シリレンケイ素間の結合はW-Si2中心2電子結合とW-H-Si3中心2電子結合からなると解釈される。この錯体にアセトンを加えると,化学量論反応ではあるが室温でアセトンのヒドロシリル化反応が進行し,イソプロポキシ基を持つシリレン錯体が主生成物として得られることを見出した。 (2)1,2-アリール転位を経由するシリル錯体から塩基安定化シリレン錯体への異性化 ケイ素から金属へのシリル基や水素の1,2-転位は知られているが,有機基の転位はカチオン性錯体からの例があるのみであった。今回,Si,N-キレート配位子を持つ中性のタングステンシリル錯体が,アリール基の1,2-転位反応を経て,アミノ基が配位したシリレン錯体に室温で異性化することを見出した。生成物の構造はX線結晶構造解析により確定した。この反応は,Si,N-キレート配位子がhemilabileであるため,タングステン-窒素結合が容易に開裂して生成する配位不飽和金属中心に対してアリール基が1,2-転位することにより起こると考えられる。 (3)アルコキシ架橋ビス(シリレン)レニウム錯体の合成 アルカンなどのC-H結合を活性化できる可能性がある「配位不飽和なシリレン錯体」の合成を最終目標とし,金属から容易に解離し得るカルボニル配位子のみを持つ塩基安定化型のシリレン錯体の合成を検討し,アルコキシ架橋ビス(シリレン)レニウム錯体の合成に成功した。この錯体のカルボニル配位子は,光照射条件下でさらにホスフィンに置換されることが分かった。このことから,この錯体は配位不飽和なビス(シリレン)錯体の良い前駆体になると考えられる。
|