研究概要 |
単分子磁石構築のため、我々は有機の2pスピンと金属の3dスピンからなるヘテロスピン系を用いることを提案した。我々のヘテロスピン系において、1個〜3個のカルベンを持つピリジン配位子とコバルト(II)イオン(又はコバルト錯体)をそれぞれ有機のスピン源及び金属のスピン源として用いた。これら2つのスピン源の各種組み合わせについて、SQUID磁束計を用いて磁気挙動を調べた。また分子間磁気的相互作用を排除するために剛体溶媒中、光照射前後での測定を行った。実際には、カルベンの前駆体であるジアゾ基を持つピリジン配位子とコバルトイオンとの溶液を適当な比率で混合し、得られた混合溶液をSQUID用サンプルとして用いた。光照射後のAC磁化率の測定において、用いた周波数に依存したX'とX"の両シグナルが観測された。このことは、コバルト錯体が遅い磁気的緩和を持つことを示している。各周波数におけるX"シグナルの極大値を示す温度から、6種のコバルト錯体のスピン反転における活性化エネルギー,U_<eff'>が40-93Kと見積もられた。また、同様な条件下でのDC磁化率の測定において、比較的大きな保持力,H_<c'>を持つ磁化のヒステリシスが観測された。サンプルとして用いた6種のコバルト錯体は、2,0Kで7-10kOeの保持力を持つことがわかった。 本研究において、ヘテロスピン系を用いた光応答型単核単分子磁石の構築に成功した。また、コバルト錯体の持つスピン量子数のSを系統だって変化させることにより、SとU_<eff>及び量子トンネル効果に起因する緩和時間,τ,の関係を明らかにすることができた。コバルト錯体のSの値とU_<eff>及びτの値の関係は、S値が増加するに連れて、U_<eff>及びτの値はそれぞれ増加すると結論された。
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