真核細胞の基本的な複膜系オルガネラであるミトコンドリアと色素体の細胞核による分裂統御機構を明らかにするために、複膜系オルガネラが細胞あたり最少数で、しかも光の明暗で完全に同調的に分裂させることができる原始紅藻(Cyanidioschyzon merolae;略称シゾン)を用いて研究を進めた。得られた成果は高等植物でも調べ比較した。先ず色素体の分裂装置(PDリング複合体)の円周がミトコンドリアの分裂装置(MDリング複合体)より2.5倍と大きいことから、色素体の分裂装置の解析からはじめた。研究の開始から最終年度まで次の幾つかの工夫をおこなった。○色素体の分裂の高い同調性の確立、○分裂中の色素体のみの分離、○分画した分裂期色素体からPDリング複合体を高純度に得るために各種界面活性剤処理、そしてOPDリング複合体からタンパク質を抽出する方法の改良である。 こうしてNP-40処理で得られたPDリング複合体分画からタンパク質を抽出し、一次元及び二次元電気泳動にかけ、バンドもしくはスポットとして得た。これらを分裂装置形成タンパク質として考えMALDI-TOFMSにかけた。その結果を2004年に解読したシゾンの核、ミトコンドリア、そして葉緑体の3ゲノムの全ゲノム情報を使って解析し、それらのタンパク質の遺伝子を同定した。しかしながら、かなりの量の純化したPDリング複合体が得られたように見えた分画で、しかも時期特異性の高いスポットでも遺伝子解析してみると、膜に局在するタンパク質が多数出現した。つまり光・電子顕微鏡で観察されない膜のコンタミがあることが分かった。そこで、更に種々の界面活性剤で処理し、蛍光及び電子顕微鏡で観察し、純度の高いPDリング複合体から抽出したタンパク質を電気泳動にかけ、分けられたスポットを再度MALDI-TOFMS解析した。その結果、約30の候補遺伝子が見つかった。更に詳しく解析し、このうち少なくとも5個の遺伝子がPD装置の構築に密接に関連することが明らかとなった。
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