本年度は、1.視葉板シナプス結合様式の解析、2.アゲハ脳地図の作成、3.色誘導の行動学的検証、4.モンシロチョウでの比較研究を実施した。 1.視葉板シナプス結合様式の解析 アゲハ複眼では、紫外、紫、青、緑、赤、広帯域の6種の視細胞が3タイプの個眼に特定の組合せで分布する。視細胞は視葉板で視覚二次ニューロン(LMC)とシナプスを形成する。これまでに、共焦点レーザー顕微鏡で視細胞軸索末端の構造を、透過型電子顕微鏡で視細胞間のシナプス結合の観察を行ってきた。本年度はこの点について補足的な観察を行い、視細胞の形成する視葉板内回路の全貌を解明した。さらに視細胞とLMCと結合についても調べ、動き知覚などに関係すると思われる系に特徴的なシナプス結合を同定した。 2.アゲハ脳地図の作成 昆虫免疫組織化学の第一人者であるマーブルグ大学のホンベルグとの共同研究として、数種の神経伝達物質候補物質に特異的な抗体を用い、免疫組織化学実験を行った。実験は研究支援員の木下がマーブルグ大学に赴いて行った。 3.色誘導の行動学的検証 色誘導は色恒常性の神経機構を探る試みの一環として、その素過程に含まれると考えられる色誘導現象、およびさらにその基盤にあるといわれる明度対比現象について、求蜜行動中のアゲハを用いて、その存在を行動学的に証明した。 4.比較生理学的研究:モンシロチョウ網膜構造の分子生物学的解析 個眼多様性の普遍性および種特異性を解明するため、モンシロチョウで比較研究を行った。モンシロチョウ複眼から3種の視物質オプシンcDNAを得た。各mRNAの組織内分布をin situ hybridization法で調べ、視細胞分光感度との対応を解明した。
|