研究概要 |
トンネル障壁を利用した金属ベースのスピントランジスタを開発するためには,良質なスピントンネル障壁の形成技術が不可欠であるため,本年度は,スピントンネル接合の形成技術について検討を行った。Si基板上に下地層としてSiN層(10nm)を成膜した後,AlCu(20nm)/NiFe(10nm)/Al-O(1.3-1.6nm)/NiFe(3nm)/IrMn(20nm)/Al(50nm)の構成の素子を作製した。接合面積は,100μm×100μmである。このタイプの素子は,室温で0.5から1.2%程度,12Kで1.5から3%の磁気抵抗変化率を示し,酸化Al層の層厚が薄くなるほど,変化率が大きくなった。しかし,NiFeを磁性層として用いた場合には,十部大きな磁気抵抗変化率が得られなかった。これは,接合界面の平坦性が不十分であるためか,金属Al層をプラズマ酸化するときにNiFe磁性層まで酸化されてしまうためではないかと考え,磁性層をCoFeBに変更した。CoFeBは,アモルファスあるいは,微結晶であるため,粒界に起因する界面の凹凸がほとんどなく,粒界から酸化が進むようなことも考えられられないため,磁気抵抗特性の改善が期待される。上記のNiFeの場合と全く同じ条件で,CoFeBを用いたスピントンネル素子を作製したところ,室温で,10%前後の,12Kで12から19%の変化率が得られた。室温における変化率が小さいのは,MnIr層による交換異方性が不十分であるためで,今後,MnIr層の組成比等を調整して,より大きな交換結合が得られるようにする必要がある。これらの実験は,5元のマグネトロン・スパッタ装置を用いて行ったが,スピントランジスタを作製するためには,6から8元の装置が必要であるため,8元のマグネトロン・スパッタ装置の開発と設計を行った。
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