研究概要 |
本研究は,金属間化合物を強化相として利用する新しい高強度オーステナイト系耐熱鋼の開発に対する設計指針を見いだすことを目的とし,特に,強化相としてA_3B(D0_<22>型構造)およびA_2B型(Laves)金属間化合物相に着目して研究を進め,本年度以下の成果を得た. ・Ni_3V(D0_<22>)相の析出形態 Ni-V2元系においてγ母相中に析出するNi_3V相の形態は八面体形状である.これにNiサイトに置換するFeおよびVサイトに置換するNbを添加すると,その形状はレンズ状を経て角柱状へと変化する.この形状の変化はγとD0_<22>相の整合界面における格子ミスフィットの大小,特にD0_<22>相のa軸とのミスフィットδ_aに強く依存する. ・Fe-Cr-Ni-Nb4元系合金の相平衡と相変態 1200℃において、Ni固溶体(γ)と平衡する化合物相は4種類存在する:Ni_3Nb(δ), Cr_2Nb, Ni_6Nb_7(μ), Fe_2Nb(ε),これらの相間では温度の低下に伴い次の2つの遷移包析型反応(γ+μ→Cr_2Nb+ε,γ+Cr_2Nb→δ+ε)が生じ,800℃においてγ相はNi濃度が40%以上ではδ相,35%以下ではε相と平衡する. ・Ni_3Nb相の析出形態 δ相(D0_a型構造)は母相γと特定の方位関係({111}_γ//(010)_δ,<110>_γ//[100]_δ)を持ってヴィドマンステッテン状に析出する.しかし,Nbの添加量の増加に伴い,その形態はラメラ状に変化する.これは,δの析出に先立って準安定Ni_3Nb-γ"相(D0_<22>型構造)が微細均一に整合析出し,それが不連続析出によって安定相δに変化するためである. ・Fe_2Nb-εLaves相の析出形態 ε相(C14型構造)は母相と特定の方位関係({113}_γ//(112^^-6)_ε)をもって菱面体形状として粒状析出し,時効に伴い[112^^-0]方向に優先的に成長して棒状に変化する.その析出形態はNi濃度に強く依存し,Ni濃度の低下に伴い微細均一になる.これは,γと平衡するε相の軸比c/aがNiの低下に伴い増加してcubic symmetryの理想値(c/a=1.633)に近づき,ε相の周りの母相の弾性応力場が等方的になることにより,特定の方向への成長が抑制されるためである. 以上のことから,化合物相を強化相とするオーステナイト系耐熱鋼は開発可能性であることを明らかにした.
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