多様な生理活性を併せもつ天然生理活性物質(天然物)においては、ある活性が他の活性の副作用として働き、実用化に問題を生じる場合が少なくない。 本研究は、多様な生理活性をもつ天然物を全合成することを第一の目的とし、つぎに、その方法を用いて種々の構造ユニットを合成し、それらの構造-活性相関を研究して、それぞれの活性発現に必要な最小ユニットを明らかにし活性分離することを第二の目的とする。さらに、天然物より優れた生理活性や天然物とは異なる新しい活性をもつ化合物を創成することを第三の目的とし、有用物質の工業的製法の開発を最終目的とする。平成15年度の研究成果は下記の通りである。 1)制がん作用と抗菌作用を有する四環性天然物UCE6の初の全合成(完全合成)達成した。その合成中間体の生理活性を検討した。2)抗菌活性、免疫抑制作用、骨吸収阻害活性などを有するルミナシン類の初の全合成を完成し、絶対構造を確証した。さらに、構造-活性相関研究を行い、活性本体が糖質部分ではなく芳香環部分であることを見いだした。特に新しい活性であるSH3関連蛋白-蛋白相互作用を示す化合物を創製した。3)制がん作用と抗菌活性を示すコクレアマイシン類を光学活性なD-マンニトールとL-リンゴ酸から初めて全合成(完全合成)し、その絶対構造も明らかにすると同時に、関連の天然物の絶対構造も明らかにした。4)養殖魚の敗血症に有効で抗菌活性を有するテトロデカマイシン類を全合成するための鍵中間体の新しい合成法を開発し、完成のための最終工程を検討している。5)リンホサイトキナーゼ阻害作用、免疫抑制作用をもつリンホスチンをL-トリプトファンから6種類の酸化的反応を経て、初めて全合成(完全合成)すると共に、生合成過程を示唆した。
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