研究概要 |
誘電体内の内部帯電シミュレーションに関しては,計算の高速化をはかるため,平成14年度に導入された並列計算機上を使用してシミュレーションを行った.対象試料としてはテフロンを選定し,量子力学を用いた電子散乱理論モデルに基づいて,入射電子エネルギーが数十keVの場合を計算した.その結果,誘電体内部に蓄積する電荷の様子が再現でき,他のシミュレーション結果や実験結果とは定性的に一致した傾向が見られた.プログラムの並列化については,各プロセッサ間の通信量が膨大になり,期待された並列効率が得られなかったが,単体で計算するより高速で計算することができた. 実験に関しては,平成14年度に導入した超高真空排気システムと平成15年度に導入した電子線照射装置を稼働させるとともに,計測システム全体の構築と調整を行った.とくに,音波を利用した圧電素子誘起圧力波法(PIPWP法)については,高精度化と計測の効率化を目指して改良を行った.この装置を用いて,各種誘電体(テフロン,カプトン,PMMA等)に対する電子線照射試験を実施した.また,外部機関においても電子線照射を実施し,本研究で採用した方式で内部帯電計測を行った.照射エネルギーは数十keVから数MeVまでと,広範囲に及び,宇宙空間の様々な放射線環境に対応した.これらの実験から得られるのは電荷分布,電界分布,電位分布の時間変化であり,これらの結果をまとめて内部帯電データベースの基礎を作り上げた. 実験やシミュレーションの結果を比較検討した結果,誘電体組成の違いにより内部電荷蓄積の様子が大きく異なることがわかった.電荷蓄積過程の理論を用いて,それらの傾向を説明することを試みた.
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