研究概要 |
本研究では、イネの収量形成に関連する遺伝子発現を網羅的に解析するとともに、QTL解析によって収量の品種間差をもたらす要因を明らかにすることを目的とした。 研究経過:圃場及びポット栽培で得られた材料を用い、イネの穎果(強勢穎果と弱勢穎果)における遺伝子発現解析等を行った。遺伝子発現解析には強勢穎果と弱勢穎果の発達過程ごとにcDNAライブラリーを作成するとともに、約300種類の炭水化物代謝関連遺伝子からなるマクロアレーを開発して実験に供した。また、QTL解析にはコシヒカリ(日本型品種)の染色体の一部をカサラス(インド型品種)に置換した系統群(染色体部分置換系統(CSSL)、39系統)を用いた。 研究成果:(1)イネの強勢穎果と弱勢穎果においては、多数のデンプン合成関連酵素遺伝子の発現のパターンに違いがあり、それらの違いは胚乳細胞の発達過程と密接に関連していることを明らかにした。(2)cDNAライブラリーを用いた解析の結果(強勢穎果:3137クローン、弱勢穎果:2472クローン)、強勢穎果では弱勢穎果に比べて貯蔵タンパクの発現が高かった。弱勢穎果では、いくつかのglycine-rich protein遺伝子の発現が高かった。(3)296の遺伝子を搭載したマクロアレーを用いた解析では、穎果発達前期で発現が高い遺伝子と後期で高い遺伝子に分かれた。また、強制的に一部の強勢穎果を剪除した弱勢穎果を加えた解析の結果、弱勢穎果でも穎果への炭水化物転流を促進することで強勢穎果と同様の発現パターンを示す遺伝子と影響を受けない遺伝子が存在することを明かにした。(4)登熟初期のデンプン蓄積に影響のある葉鞘でのデンプン蓄積量は、基部が最も多く先端に行くに従って減少するが、基部の蓄積割合は熱帯ジャポニカの性質をもつNew Plant Type(NPT)で最も低かった。NPTではショ糖も貯蔵炭水化物として機能している可能性が示唆された。(5)CSSLを用いた解析で、イネの生育等に関わるAB-QTL(草丈(q-PhH1,2,3,6,8,12)、稈長(q-CL1,2,3,12)、穂数(q-Pn1)、クロロフィル含量(q-ChlH3,4,7)、比葉重等(q-SLW7)を多数同定した。このうち、q-Pn1、q-ChlH4、q-SLW7は3年間ほぼ安定的に得られているため、遺伝的に決定されているものと考えられた。
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