研究課題
基盤研究(A)
近年、ニホンジカの生息個体数増加や生息分布の拡大とともに、森林への被害は激しく、その維持が困難な状態にある森林が多くみられる。こうした森林の荒廃は森林生態系に大きな影響を与えている。健全な森林生態系では、長年月を経て維持されてきた食物連鎖などの生物間相互作用ネットワークが正常に機能している。シカによる樹幹剥皮害で大量の樹木が枯死している森林では、長年培われてきた生物間の相互作用が崩れている。このような被害が生物間相互作用ネットワークに対する影響にまで踏み込んで調査された例は少ない。本研究では、シカによって剥皮害を受けた森林生態系内における生物間相互作用ネットワークがどのような影響を受けているのかを様々な角度から明らかにし、森林生態系における生物多様性維持機構の解明に寄与することを目的とした。調査はニホンジカの生息個体数の増加により森林衰退が激しい大台ヶ原で行った。この地域における現存植生をササとの関連において明らかにした。ニホンジカの生息密度とその生息分布を明らかにし、それらとササ草原拡大との関係を検討した。さらに樹木剥皮害発生環境を把握し、シカが樹皮を剥皮する要因についても検討した。森林生態系内の生物間相互作用を定量的に調べるには、特定の生物の実験的な除去などによってその制御効果を調べるのが有効な手段である。折しも環境省は大台ヶ原にニホンジカの食害から原生林を保護することを目的とし2000年に防鹿柵を設置した。柵内外を比較することによって、ササの形態的・生理的な変化が明らかになり、ササの侵入・繁茂の程度とその進行にともなう樹木実生への影響が明らかになった。さらに、シカの生息と樹木の衰退・枯死を通して受ける森林の無機的環境の変化、およびこうした動植物環境の変化にともなう草食性のネズミ、食植性昆虫とそれを捕食する捕食性鳥類などへの間接的な影響を明らかにした。
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