研究概要 |
資源量変動が高緯度水域で大きく低緯度水域で小さいというニシン科魚類でみられる現象が,他の動物群でも見られる一般的な傾向かどうかを検討すると同時に,この現象の基礎となる繁殖生態と初期生態の特性に関する知見を蓄積して,高緯度水域と低緯度水域における資源生物の再生産戦略の違いを明らかにすることによって,資源量変動のしくみを解明することをねらった。 日本周辺のマサバScomber japonicusは2つの系群に分けられている。亜寒帯水域へ索餌回遊するマサバ太平洋系群の新規加入量が1971年以降約70倍の幅で変動したのに対して,東シナ海〜日本海南西部を生息域とする対馬暖流系群の変動幅は4倍と安定していた。この南北差は,ニシン科魚類のマイワシとウルメイワシにみられた種間における新規加入量変動様式の南北差に匹敵し、マサバ1種内においても新規加入量変動様式に大きな南北差があることがわかった。 北西太平洋のサンマCololabis sairaは,黒潮域から黒潮親潮移行域までの広い海域で産卵する。冬に黒潮域で生まれた仔稚魚と,春と秋に黒潮親潮移行域で生まれた仔稚魚について,成長速度と生残率の経年変動幅を、1990〜1998年の9年間について比較した。その結果、黒潮域では体長40mmの稚魚に成長するまでに要する日数と累積生残率が安定しているのに対して,黒潮親潮移行域で生まれた群では変動幅がいずれも大きいことがわかった。このような初期生活史パラメタ変動様式の南北差は,新規加入量変動様式の南北差の生態学的基礎を構成すると考えられた。
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