研究概要 |
IFNτ遺伝子の発現制御機構では、トロホブラスト細胞特異的な発現と時期特異的な(着床期のみ)発現メカニズムを解明することが目的であった。トロホブラスト細胞特異的な発現は、Cdx2という転写因子を強制発現することによって、これまでどのIFNτ遺伝子発現制御機構解明システムでも成しえなかった細胞特異的な発現を可能にした。さらに、この転写因子が確実にヒツジ・トロホブラスト細胞内に存在し、またIFNτ上流域に結合することも証明した(Imakawa et al.,論文5)。しかしながら、IFNτ遺伝子の時期特異的な発現の解明までには至らなかった(Nojima et al.,論文3)。 子宮内膜で妊娠特異的に発現する因子群は、妊娠・非妊娠子宮のcDNAサブトラクション法で同定した(Nagaoka et al.,論文1)。妊娠子宮内では、CXCケモカイン(IP-10,MIG,ITAC)などが特異的に発現していた(Imakawa et al.,論文6)。これらは子宮内膜上皮細胞直下に存在する単核球(マクロファージ)で発現されており、胚IFNτにより制御されている(Nagaoka et al.,論文3)。子宮単離細胞などを駆使しながらCXCケモカインに関連あるいは連動する遺伝子の発現解析とその制御でもかなりの知見を得ることができた。これは、毎年秋に行うアメリカ農務省での採材・実験(Dr. Ron Christensonとの16年に亘る共同研究)での成果である。子宮内でのIP-10は、子宮内腔に向かって濃度勾配を形成する。そのIP-10は胚側のケモカイン・レセプター(CXCR3)によって感知され、その勾配に向かって胚は着床部位へと遊走する(Nagaoka et al.,論文2)。この遊走中、胚はインテグリン(α_5,α_v,β_3)を発現するようになり、子宮上皮細胞のフィブロネクチンを介して接着を開始する(Imakawa et al.,論文6)。一方、子宮間質側でも濃度勾配を形成するIP-10は、母体側免疫細胞とくにNK細胞のレセプターによって感知されるため、NK細胞は胚トロホブラストに向かうように遊走してくる。この遊走中、NK細胞はインターロイキン(IL-10)を発現するため、子宮内環境は妊娠成立の方向へすすんでいく(Imakawa et al.,論文4)。 ヒツジES・TS細胞の研究だけは頓挫してしまった。研究分担者の田中らは、マウスでTS細胞の樹立に成功していた。その方法を駆使し数々の樹立実験を試みたが、ヒツジやヤギでは困難を極めてしまった。また、トロホブラスト細胞の初代培養系は形質の転換が著しく、3日以上の形質保持はできなかった。以上のように、本研究期間、胚トロホブラスト細胞の子宮上皮細胞への着床(接着)機構を明らかにすることが出来た。
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