研究概要 |
本研究の目的は、生体レベルで、特定の標的分子に作用する医薬品による治療的介入が可能なのかという本質的課題に対して答を出すことにある。薬理学は、長年にわたり医薬品の作用機構を分子レベルで解明してきたが、生体レベルでは、この本質的課題に対して答を出していない。しかしながら、ポストゲノムシークエンス時代に初めて答えが出る可能性がある。我々は医薬品の作用機構の解明をトランスクリプトーム解析により行い、病態形成時に誘導されるストレス蛋白質であるHO-1,HSP72,S100Cに医薬品ターゲットとしての治療的作用機構を見出し、病態形成時のストレス応答遺伝子クラスターに治療薬ターゲット分子が内在することを明らかにした。さらに、我々は、独自に構築した病態薬理プロテオームデータベースと薬理プロテオーム機構解析との統合的解明を試みている。低酸素曝露ストレスによる肺高血圧症ラットモデル肺のプロテオーム解析において、S100C蛋白質の発現を認め、低酸素暴露後、24時間をピークとした発現上昇が認められた。また、タウリン投与により、発現抑制が認められた。現在、S100C遺伝子のプロモーター領域における低酸素応答配列および他の転写調節エレメントを介する低酸素シグナリングのプロテオーム機構解析を進めている。さらに、くも膜下出血後の脳底動脈では、遅発性攣縮に相応してHO-1,HSP72の蛋白質発現上昇が認められ、HSP72の医薬品による誘導で脳血管攣縮が著明に改善することを見出した。これらの知見から特定のストレス蛋白質をターゲットとした医薬品による治療的介入が可能であり、今後、トランスクリプトーム解析、プロテオームデータベースと薬理プロテオーム機構解析との統合的を進めていくことで、ストレス蛋白質に作用する医薬品による治療的介入を生体レベルで包括的に解明できると考えられる。
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