研究概要 |
本研究において、病態負荷時に発現誘導されるストレス蛋白質システムが、新しい治療薬ターゲットになることを発見し、その分子機構を解明したので報告する。すなわち独自に見出した新しい低酸素応答遺伝子であるカルシウム結合蛋白質Sl00Cや新しく見出している他のストレス蛋白質発現誘導に焦点をあて、病態モデルにおける血管リモデリングの薬理プロテオーム機構を解明した。そして、独自の薬理プロテオームデータベースと薬理プロテオーム解析の統合により医薬品作用のプロテオーム機構を明らかにした。 具体的には、低酸素暴露による肺高血圧症モデルにおいて、HIF-1を介したストレス蛋白質S100Cの発現誘導が肺動脈のリモデリングに対し抑制的な役割を果たしていることを発見した。さらにメタボローム解析により、タウリンの経口投与がHIF-1及びS100Cの発現抑制を介し、肺動脈の血管リモデリングを抑制、肺高血圧症治療薬としての可能性を報告した(The Pharmacogenomics J.3:183-188,2003)。また、くも膜下出血モデルにおいて、遅発性脳血管攣縮時の脳底動脈におけるストレス蛋白質HSP72の発現上昇、さらに胃潰瘍治療薬テプレノン(Geranylgeranylacetone)の経口投与が、脳底動脈におけるストレス蛋白質HSP72の発現誘導を介して、遅発性脳血管攣縮の改善を促進することを発見した(Circulation.110:1839-1846,2004)。 これらの研究成果により、血管リモデリングの新しい薬理プロテオーム機構を解明した。我々が、世界に先駆けて提唱した「病態薬理プロテオームデータベースと病態モデルにおけるストレス蛋白質誘導の薬理プロテオーム解析の統合的解明」が、本研究により達成されたので、この研究戦略は今後広範な応用が可能である。
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