研究概要 |
PIRの生理的リガンドの同定に取り組み,それがMHCクラスI分子である証拠を見い出し,このレセプター・リガンド相互作用が生理的に重要であることを証明した.つまり,リコンビナントPIRはマウスMHCクラスI分子モノマーとおよそ1.9〜5.6×10^7のK_d値で結合する.さらに実際の免疫細胞上に発現するPIRは蛍光標識したMHCクラスIテトラマーと結合し,シグナル伝達が観察された.MHCクラスIの発現の多寡により影響を受ける実験系として移植片対宿主病『graft-versus-host disease(GVHD)』があるが,放射線照射したPIR-B欠損マウスに野生型マウスの脾臓細胞を移入することで誘導されるGVHDは重症化し,致死的となる.PIR-B欠損マウスのGVHDではドナー側のCD4^+TおよびCD8^+T細胞のIFN-γ産生細胞のポピュレーションが増加するなどの知見から,PIR-B欠損マウスのGVHDではドナー細胞上のMHCクラスIを認識する樹状細胞上の抑制性PIR-Bが無いために,活性化型であるPIR-Aによる認識のみとなり,樹状細胞の活性化の亢進とドナーT細胞の活性化亢進が誘導されると考察される.また,これまで破骨細胞の分化には骨芽細胞などから提供されるRANKL(receptor activator of NF-κB ligand)が必要十分と考えられていたが,我々はRANKL以外に多数のIgLRsが活性化する必要があることを突き止めた。つまりIgLRの活性化に利用されている膜アダプターであるFcRγとDAP12が同時に欠損することで破骨細胞の試験官内での分化は完全に阻害され,このマウスは重度の大理石骨病となる.破骨細胞のこの経路による活性化にはPIR-A,OSCAR,TREM-2,SIRPβ1などの既知の活性化型IgLRsおよび未知の活性化型IgLRsが関与していることが示された.この成果により,慢性関節リウマチ患者の破骨細胞のはたらきの制御は,IgLRsを介する活性化経路を人為的に修飾することで達成できる可能性が指摘される.
|