本態性高血圧症は原因不明の多因子疾患であり、環境因子・遺伝因子の相互作用により発症、進展し、重篤な各種循環器合併症の主要因となる。本研究では、遺伝子多型(SNPs : single nucleotide polymorphisms)解析を中心に、表現型を豊富に有する複数の大規模遺伝疫学研究(阪大研究、大迫研究、吹田研究、尼崎研究)の確立と、ヒトゲノム解析の倫理指針に従い検体の収集を図り、TaqMan PCR法を用いて遺伝子解析を実施した。ゲノム網羅的に「高血圧罹患」との関連解析を追求するミレニアム・プロジェクトに検体を提供する一方で(特定領域・ゲノム医科学)、本研究では候補遺伝子アプローチを用いて、詳細な表現型や環境因子との関連解析を実施した。その結果、日本人ではアンジオテンシノーゲン、αアデュシン、G蛋白β3サブユニット、アルドステロン合成酵素など食塩感受性高血圧リスクが白人よりも高いことや、ギテルマン症候群の原因となるサイアザイド感受性NaCl共輸送体が女性のみで高血圧リスクを高めること、メチレンテトラヒドロ葉酸(MTHFR)遺伝子多型が喫煙と相互作用を示して頸動脈硬化を促進すること、低アディポネクチン血症(I164T多型保有者では特に顕著)が高血圧や循環器疾患リスクを高めることなどを明らかにし、体質に応じた至適環境の整備がテーラーメイド医療確立のための第一歩となることを示した。さらに、本研究で整備を行った尼崎研究やHOMED-BP研究は、ポストミレニアムプロジェクトの解析に応えられる資質を兼ね備えており、今後の検討が予想される降圧薬、生活習慣との関連を前向きで検討する礎を築いたことも特記すべき点である。日本人ためのテーラーメイド医療は今後、本研究のような日本人遺伝疫学研究のデータに基づいて行われることが期待される。
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