「膵再生」による糖尿病治療の臨床応用に向けた基盤技術の開発を目的として、単離した膵細胞集団の中から、極少数しか存在せずかつ形態によって区別することが難しい多能性を持つ幹細胞(stem cell)を、FACS(fluorescence activated cell sorter)を用いた精度の高い細胞分離法により純化・回収し、それらの分化・増殖・自己複製機構を解析することを試みている。前年度マウス新生児膵臓より分離したc-Met+ Flk-1- c-Kit- CD45- TER119-細胞中に、高い増殖能と複数の膵細胞系列への多分化能を兼ね備えた膵幹細胞/前駆細胞が限定的かつ高頻度に存在すること、さらにそれらがin vivoにおける組織再構築能を有することを確認した。一方、この細胞のin vitroにおける膵ベータ細胞への選択的分化誘導法の確立および細胞移植による糖尿病治療効果については、さらなる研究が必要であることが明らかとなった。そのため、in vitroにおける膵ベータ細胞への選択的分化誘導法の確立を目的として、細胞分化を可視化することにより選択的な分化誘導条件を効率よくスクリーニングするための新たな実験系を確立することを試みた。すなわち、膵臓の初期発生時に限定的に発現する転写因子(PDX-1)プロモーターでGFP(green fluorescence protein)/DsRedII遺伝子を発現するトランスジェニックマウスを使用して、GFP/DsRed陽性細胞をFACSを用いて回収し、分離した膵幹細胞の分化・増殖過程を検討した。その結果、GFP/DsRed陽性細胞は多様性に富む細胞集団であること、これらの一部にしか増殖活性が認められないことなどが判明した。今後、PDX-1だけではなく、分化した膵前駆細胞を他の転写因子(Ngn-3等)プロモーターで蛍光タンパク遺伝子を発現するトランスジェニックマウスを併せて使用することにより、膵幹細胞から膵前駆細胞、さらに膵ベータ細胞への選択的な分化誘導条件を効率よくスクリーニングすることが可能な実験系を確立していく予定である。
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