「膵再生」による糖尿病治療の臨床応用に向けた基盤技術の開発を目的として、単離した膵細胞集団の中から、極少数しか存在せずかつ形態によって区別することが難しい多能性を持つ膵幹細胞(pancreatic stem cell)を、FACS(fluorescence activated cell sorter)を用いた精度の高い細胞分離法により純化・回収し、それらの分化・増殖・自己複製機構を解析することを試みた。マウス新生児膵臓より分離したc-Met+Flk-1-c-Kit-CD45-TER119-細胞中に、高い増殖能と複数の膵細胞系列への多分化能を兼ね備えた膵幹/前駆細胞が限定的かつ高頻度に存在すること、さらにそれらがin vivoにおける組織再構築能を有することを確認した。一方、細胞分化の可塑性を利用した手法として、マウス胎児腸管上皮細胞を分化誘導因子を添加して培養し、RT-PCR、免疫染色法によりインスリン発現を検討した。その結果、膵・細胞の分化誘導作用を有するglucagon like peptide-1(GLP-1)(1-37)に、インスリン発現誘導作用があることが明らかになった。腸管上皮細胞由来のインスリン産生細胞は、培養液中にインスリンを分泌しており、グルコース応答性を有することが判明した。妊娠マウスへの投与実験でも、GLP-1(1-37)は胎児腸管上皮におけるインスリン産生細胞の分化誘導作用を有することが確認された。さらに、インスリン産生細胞を誘導した腸管組織を糖尿病マウスの腹腔内に移植したところ、血糖値降下作用や体重減少抑制作用などの治療効果が観察された。すなわち、腸管上皮細胞の可塑性を利用することにより、膵外組織において異所性にインスリン産生細胞を誘導することが可能であり、糖尿病に対する再生医学的アプローチとして期待がもてると考えられた。
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