研究概要 |
Ewing肉腫(ES)は悪性骨軟部腫瘍の中で最も生命予後不良な腫瘍の一つである。ES症例の90%以上で染色体転座t(11:22)(q24;q12)の結果、異常な融合遺伝子EWS-Fli1が生じている。この融合遺伝子産物は強力な転写因子として働き、ESの発がん原因と考えられている。これまでに我々は、EWS-Fli1が癌抑制遺伝子Rbに関係した細胞周期制御因子(p27,p21,cyclin E)を標的とし、Rb経路を阻害することがES発がんに深く関与していることを明らかにした。一方、p53経路についてはほとんど明らかにされていないため、EWS-Fli1によってp53の機能、特にアポトーシスの誘導がどのように抑制されているかを解明する目的で研究を行った。その結果、EWS-Fli1とp53は直接結合しており、p53正常ES細胞においてもp53の機能抑制が生じていた。EWS-Fli1によってp53の下流のエフェクター分子の発現がどのように変化するかを調べた結果、アポトーシス関連遺伝子の発現変化は認められなかったが、p21の発現が抑制されていた。p21の発現抑制は、p53の機能抑制の他、プロモーターレベルでのピストン脱アセチル化が関与していた。そのためピストン脱アセチル化酵素阻害剤がESに有効と考えられ、実際にin vitro及びin vivoにおいても腫瘍増殖抑制効果が認められた。しかし多剤耐性ES細胞には無効の場合もあり、臨床応用には十分な検討が必要と考えられた。次に、EWS-Fli1の切断点部分を含むsiRNAを合成し、EWS-Fli1発現をノックダウンした場合にES細胞がアポトーシスに陥るかを調べたところ、p27発現が著明に誘導され細胞周期が停止したが、ES細胞にアポトーシスは誘導されず、細胞老化(senescence)が誘導されることが判明した。従って、EWS-Fli1によるES発がん機構として、細胞老化の回避があると推察された。これはこれまでに報告されていないEWS-Fli1の機能であり、ES発がん機構の解明と分子標的治療の開発研究に新しい視点を与えるものである。
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