研究概要 |
過去の10年間の神経化学の発達に相応し、疼痛の受容・制御機構や麻酔薬の作用機序に関してさまざまな面からの研究成果が報告されているが、本研究で意図している課題『麻酔・疼痛シグナル伝達におけるイオンチャネルとイオン・トランスポーターの制御機構』に関する研究は極めてわずかである。局所麻酔薬のリドカインなど様々な作用をもつ薬が、中枢神経系ニューロンのNa+チャネルに作用し麻酔作用を発揮するとともに、難治性のニューロパッシクペインに効果があるとの報告が散見されているが、その疼痛伝達シグナル機構への作用機序は明らかではない。 本研究は動物実験、DRGニューロンを用いたパッチクランプ法、細胞内シグナル分子MAPキナーゼのリン酸化の3つの方法を用いて研究を行った。ラット脊髄後根神経節(DRG)細胞のNa^+チャネルの活動に対する、のTTX抵抗性Na^+チャネルの活動に対する影響と、NMDA受容体拮抗薬、ketamine, dextromethorphan, idenprodilのTTX抵抗性、感受性Na+チャネル活動に対する影響を観察した。上記NMDA受容体拮抗薬はいずれもTTXRNa^+チャネルの活性を投与量依存的に抑制した。 臨床で使用可能なNa+チャネルブロッカー、NMDA受容体拮抗薬のいずれも、疼痛シグナル伝達の制御に影響していると示唆される。麻酔薬ロピバカインとブピバカインが、ERKリン酸化を与える影響を、光学異性体による違いがあるかを検討し、光学異性体による異なりは観察されなかった。ATP感受性K+チャネル作動薬は、MAPKカスケードの内、主に細胞増殖刺激により活性化されるERKを賦活する。局所麻酔薬、ロピバカインとレボブピバカインのアポトーシスシグナル伝達分子PLDの活性へ影響し、またその異性体の細胞内シグナル伝達タンパクのリン酸化への影響は、局所麻酔薬によっては異なるが、その光学異性体のMAPKのリン酸化に対する影響は同じであるとの結果を得た。 痛みの制御機構に関しては細胞内シグナル蛋白、特にMAPキナーゼが役割を演じていると示唆される。
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