研究概要 |
急性重症脳障害(心肺停止,脳卒中,頭部外傷など)の予後は非常に悪く,その病態解明と治療法の開発は急務である.これらの病態では従来のメカニズム(Ca^<2+>・グルタミン酸説,ラジカル説など)以外に免疫・内分泌反応が関与するとの発想の転換を行い,その病態解明と治療法開発の基礎研究を行った. (臨床研究) 1.心肺停止・蘇生患者の神経学的予後(Glasgow outcome scale : GOS)不良例ではXe-CT脳血流が30ml/100g/分未満でアセタゾラミド反応性が悪く,内頚静脈酸素飽和度(SjvO2)は高値を示し,磁気共鳴画像(T1W1)で基底核に高信号域を認めた.また,脳脊髄液(CSF)と血清のニューロン特異性エノラーゼ(NSE)は共に上昇し,CSFのインターロイキン(IL)-6とIL-8は著明に上昇した. 2.くも膜下出血患者ではカテコラミンサージ(ノルエピネフリンとエピネフリンの上昇)が起こり,心筋傷害を認めた.術後CSFのラジカル関連物質の8-OH-2-deoxyguanosine(8-OHdG)は上昇したが,脳血管攣縮の有無による有意差はなかった.NOx(NO2^-+NO3^-)は経日的に上昇傾向を示し,8-OHdGと弱い相関を認めた.CSFのIL-8,IL-6,腫瘍壊死因子(TNFα),high mobility group box 1(HMGB1:晩期メディエータ)はそれぞれ上昇し,IL-6とHMGB1およびTNFαとHMGB1はそれぞれ正の相関を示した.CSFの抗炎症性サイトカイン(IL-4,IL-10)の上昇は軽度であった. 3.頭部外傷患者では,CSFのIL-6が著明に上昇した. (基礎研究) 新生仔ラットミクログリアの初代培養細胞は内毒素刺激によりNOxと炎症性サイトカイン(TNFα,IL-1β,IL-6)を著明に上昇する.女性ホルモン(17βエストラジオール),免疫抑制薬(メチルプレドニゾロン,シクロスポリン,タクロリムス),抗炎症薬(インドメタシン)は原則的にはNOxや炎症性サイトカインの上昇を著明に抑制するが,薬剤間に差があることが判明した.また,傷害脳に入る可能性がある単球は内毒素刺激により各種サイトカインを著明に放出し,33℃の環境下では炎症性サイトカイン放出を増加した.動物実験は脳虚血モデルを作成したが,ミクログリアや単球の培養細胞で証明し得た免疫抑制薬,抗炎症薬,温度下降の効果をみるには至らなかった. 以上の結果から急性重症脳障害患者の予後予測には脳血流量,SjvO2,心筋傷害度,CSFのNSE,IL-6,IL-8が判定指標となり,病態にはCSFのラジカル関連物質(NOx,8-OHdG)や炎症性サイトカインおよび晩期メディエータ(HMGB1)の上昇がみられ,その背景にミクログリアや単球が関与することが示唆された.
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