研究分担者 |
久具 宏司 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (30322051)
藤井 知行 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (40209010)
矢野 哲 東京大学, 医学部附属病院, 助教授 (90251264)
大須賀 穣 東京大学, 医学部附属病院, 助手 (80260496)
百枝 幹雄 東京大学, 医学部附属病院, 助手 (50221627)
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研究概要 |
妊娠中毒症の病態形成において,近年,血管内皮細胞の障害が注目されている.今回我々は,vascular endothelial growth factor (VEGF)およびplacenta growth factor (PlGF)のアンタゴニストである,soluble VEGF receptor-1 (sVEGFR-1)が妊娠中毒症の一因となっている可能性があると考え,本研究を行った.患者の同意のもと,31名の妊娠中毒症妊婦(平均年齢33.1歳,平均妊娠週数34.0週)と,年齢および週数をマッチさせた52名の対照正常妊婦より血清を採取した.血清の採取は,妊娠中毒症発症の時点とし,薬物療法等の開始前に行った.両群の各々6名からは,分娩後7日目の血清も採取した.それぞれの血清中のsVEGFR-1濃度をELISA法にて測定した.さらに,妊娠中毒症妊婦17名と対照の正常妊婦17名の,妊娠初期の血清についても,同様にsVEGFR-1濃度を測定した.妊娠中毒症妊婦の血清中のsVEGFR-1濃度(中央値7791pg/ml)は,対照妊婦(同1132pg/ml)に比し有意に高値であった(p<0.0001).分娩後は,両群とも血清中sVEGFR-1は著しく減少した.また対照妊婦の血清中のsVEGFR-1濃度は妊娠週数と正の相関を認めたが(r=0.570,p<0.0001),妊娠中毒症妊婦では,相関を認めなかった.さらに妊娠初期の段階でも,その後妊娠中毒症を発症した妊婦の血清中sVEGFR-1濃度は対照に比し,有意に高値であった(中央値723pg/ml v.s.560pg/ml,p=0.0287).以上の所見により、血清中sVEGFR-1の増加は母体血清中でVEGF,およびP1GFの血管保護作用等を障害することにより妊娠中毒症の発症に関与すると考えられた.また,血清中のsVEGFR-1濃度が妊娠中毒症の発症を予知するマーカーとなり得る可能性も示唆された.
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