研究概要 |
我々は種々の細胞外マトリックスが細胞の接着性,伸展性に対して促進効果を有することを報告してきた。細胞外マトリックスによる細胞内シグナル伝達系の解析を行った。フィブロネクチンをコーティングして培養した角膜上皮細胞はRhoの活性化が促進し,ラミニン上で培養した角膜上皮細胞はRacの活性化が促進していることを明らかにした。また,角膜上皮細胞と実質細胞は種々のサイトカインを分泌することが知られており,生体内ではこれらのサイトカインのオートクラインおよびパラクライン作用により移動,増殖,細胞死のバランスを保つことで角膜形状および強度などの恒常性を維持している。角膜線維芽細胞の増殖と細胞死を制御するサイトカインネットワークを解明するために,種々のサイトカインによる細胞増殖とアポトーシス抑制シグナルであるAktの活性化に対する影響について検討した。PDGF, Insulin, IGF-1, IGF-2およびEGFにより細胞増殖能の促進,Aktの活性化亢進およびアポトーシスの抑制効果が認められた。Basic FGF, KGF, NGFおよびHGFにより細胞増殖能は促進されたが,Aktの活性化やアポトーシスの抑制効果は認められなかった。TGF-β1およびTGF-β2では細胞増殖能,Aktの活性化およびアポトーシスの抑制効果は認められなかった。白色化家兎の角膜を短冊状に切除し,マルチガスインキュベーターを用いて種々酸素濃度24時間培養し,酸素濃度およびそれにより生ずる抗酸化物質が角膜上皮-実質器官培養系の創傷治癒におよぼす影響について検討した。高酸素状態が角膜上皮の創傷治癒に促進的に作用することが明らかとなった。 今後,これらの細胞外マトリックス,サイトカインおよび酸素濃度をどのように組み合わることにより,人工角膜作成に向けた重層角膜上皮層-コラーゲンゲル複合体作成に適するのかについて検討を行う。
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